厨房男

こどもの頃に欠乏していた食の体験を取り戻そうとする厨房男の喰う・呑む・つくる・・・のはなし

「菊亭八百善の人びと」

2018-05-15.jpg大阪にも料亭がなくなった。
3月までお仕えしていたトップはしきりにそのことを嘆いてらっしゃった。
トップが言うのは、百貨店やホテルに出店し、今に息づいてる料亭ではなくて、いわゆる黒塀に囲まれ、数寄屋づくりの建物や丹精を尽くした庭まですべて味わうような、そんな料亭。
そんな話を何度も聞いてたので、最近なにげに手に取ったのがこの本、「菊亭八百善の人びと」。

物語の舞台となる八尾善は、徳川将軍家代々の御成りも仰ぎ、ペリー来航の際の饗応料理も担うなど、江戸文化の極みと謳われた料亭。
店を戦火で失った八百善に、戦後まもなく嫁いだ主人公の汀子は、やがてその再興に努めるが・・・っていうのがメインのストーリー。

著者の宮尾登美子さんは、うちのおやじおふくろと同い年なんだそうで、そういう意味で物語の口調や運びなんかは、なんか懐かしい感じがする。

で、物語は戦後の復興変化の中で次第に翳りゆく老輔を、同じく薄れていく江戸っ子の気性を織り交ぜながら描いていく。
でもって物語は滅びゆく江戸文化の最後の輝きと、その再生を遠望するかたちで終わってるんですが、汀子が言う再生の方向、「八百善の格式をくずさずに、現代感覚のあるお店」っていうのが、前のトップが嘆いてたようなところにつながっていくんかなと。

実際には、現在は、『割烹家八百善株式会社』が、八百善ブランドの江戸料理の高級惣菜、おせち料理等を提供し、数年前には料理屋を復活させたんだそうですが、どんな料理屋なんでしょ。
ま、こっからはぼくの空想ですけど、店のつくりは村野藤吾さん、いや、白井晟一さんがいいなぁ。まあ、どちらも鬼籍の人やけど。でも、間違っても隈研吾さんなんかにはやってほしくはないなぁ。

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「おいしい魚図鑑」

今月もはや半ば。
ここ2月ほど、本の紹介をさぼってたんですけど、今月はあらためて。
で、紹介するのは「おいしい魚図鑑」。
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さて、なんで2か月も開いたかというと、ここ何回かアップしようと思って読んだ本が揃いも揃ってくだらない内容でして、アップするに値しないと判断してのこと。
こういうことって、たびたびあるんですけども、2か月も続くっていうのはちょっと珍しい。だから、今回は安全策というか、とにかくパラパラ眺めてこりゃいいわって、すぐに判断できたもんですから、この「おいしい魚図鑑」にしたっていう次第。

パラパラ眺めてこりゃいいわって、すぐに判断したって書きましたけど、主となる1枚1枚の画は深いっていうか、相当な厚みがある。
厚みっていうのは、精密っていうことではなくって、クレヨンの塗り重ねによる厚み。
むろん、物理的な厚みではなくて、何度もなんども題材と向き合い、意識を何度もなんども塗り重ねていったっていう、そういう厚み。
だから、1枚1枚の絵に込められた迫力はハンパなくて、それが、おいしいって言わしめることに結実してる。

で、そういう厚みある画とは裏腹に、挿入されてる文章はいたって軽妙。
冒頭、編集を担当されているスナメリ舎なる方から「おわび」の一文があります。
ちょっと引用させていただくと――
「このたびは『おいしい魚図鑑』を手に取っていただき、ありがとうございます。
編集を担当しております、スナメリ舎です。
ダイオウイカより深いところから、深くお礼もうしあげます。

とかいいながら、あわびがあります。
ではなくて、おわびがあります。

実は加藤休ミ先生、いや、休ミ先生のクレヨンが、魚をおいしく描きすぎてしまいました。
ふつうの魚図鑑をつくるつもりが、マサバは照りのいい文化干しに、キンメダイが煮付けに、ビンナガマグロは、ツナ缶に・・・」
とまあ、こんな調子。
画集ですから、無断で内容を転載するわけにはいかず、表紙だけの紹介にとどめますけど、一度機会があれば、ぜひ手に取って、とにかくパラパラ眺めていただければと思います。
きっとぼくと同様、こりゃいいわってなると思いますから。
それで、あらためてじっくり味わってもらえれば、なおいいなぁと。
なんてったって編集者が「魚をおいしく描きすぎてしまいました」って言うくらいですからね。

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「忙しい日でも、おなかは空く。」

2018-01-15.jpg1月もあっという間に中日になりまして。なので、一服して本の紹介でも。
年のはじめですから、なににしようかと思ったんですが、ここは手堅く平松洋子さんの本、「忙しい日でも、おなかは空く。」。

平松洋子さんはフードジャーナリスト、エッセイスト。
これまでも、「アジアの美味しい道具たち」っていう著作からはじまって、「平松洋子の台所」、「サンドウィッチは銀座で」、「買えない味」に次いで5冊目の紹介。なので外れなく、ほんと、安心して選ぶことができる。だから“手堅く”って。

で、この本の題名にもなってる「忙しい日でも、おなかは空く。」っていう魅力的なテーゼ、1篇目の「塩トマト」っていうエッセイの中に出てくる。
ちょっと引用させていただくと――
「忙しくてもおなかは空く。ときどき待っていてくれることも、忘れたふりをしてくれることもあるけれど、やっぱりおなかが空いたようと自分のからだが声を上げるから、うんわかった、もうじきだから待っていなさいと返事をする。そんなとき、自分を手なずける方法はたくさん知っていたい。繰り出せる手だてがあれば、自分で自分のめんどうを上手に見てやれるどころか、それ以上のよろこびを受けとれるから。」・・・
――この、モノローグというか、自身とのダイアローグというか、この一文に平松洋子さんの魅力がグッと詰まってるように思える。こういうおいしいエッセイが49篇。
けども、この本、決して通読するようなのではないと思う。
じっさいに、ぼくは図書館から借りてきたんで、3週間の間に読み終えなければならなかったんですが、できれば手元に置いて、きょうは1篇、1週間後、また思い出したように1篇・・・てなペースで読めればサイコ―じゃないですかね。

終盤に「土鍋」っていう1篇がある。
「土鍋のふたを開ける。はっと気づくと、その瞬間いつも息を詰めている。ごくり。つばも飲み込んでいる。
一気に開ける。ふわあーつと立ち昇る火傷しそうなほど熱いまっ白な湯気!
炊きたてのごはんの甘い香りが胸の奥まで勢いよく流れこむと、私はしみじみつぶやく。
「土鍋が連れてきてくれたこのしあわせをもう逃がさない!」・・・
・・・気まぐれに土鍋で炊いてみたごはんは、ぴかぴかに粒立ち、ふっくらむっちり甘く濃く、噛みしめたとたん驚きの声が出た。」


じつはこの土鍋、わが家で使ってる、いや、使ってた土鍋と同じ伊賀焼の土鍋。
わが家はIHなので、最近は炊飯器にずっと任せっきりなんですが、この1篇を読むとまた、土鍋をひっぱり出してきて炊こうかって気になってくる。
おそらくこの週末あたり、わが家では珍しくカリッと香ばしいおこげの匂いが立ってるかも知れません。


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本のまとめ 2017

今月も中日を迎えたわけで、本の話題など。
年末の中日は毎年1年間に読んだ本の総ざらえということで、ことしも1月から11月までの11冊について。
で、ことしの11冊、ことしはちょっとカテゴリーに分けてみて、まずは雑誌の部。
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ブルータスの「日本一の「お取り寄せ」グランプリ。」とAXISの「新しいおいしさ」。
ブルータスの方は12月15日号でも「日本一の「手みやげ」はこれだ!」っていうので同じような企画が頻出してるんですけど、前回のお取り寄せグランプリは、ちょっともの申すっていう感じで取り上げたの。
ただ、それまであんまり雑誌を取り上げるっていうのをしなかったんですが、これを機にというか、何か月か経ってAXISを取り上げたっていうのは、実はこのブルータスの功績かも知れません。

で、次が評論とか思想とか、そんな感じの3冊。
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農業経済学者の藤原辰史さんの「食べること 考えること」とエッセイストとして有名な玉村豊男さんの「料理の四面体」、それにフードジャーナリスト、マイケル・ポーランさんの「人間は料理をする」。
毎年、「食」に関しての本は、色々とっかえひっかえ読んでるんですけども、レシピ本っていうのはあんまり読まないっていうか、読んでもぱらぱらとめくって自分の興味ある料理の手順を見るだけってな具合なんですが、かわりにこの手の評論とか思想とか、そんな感じの本が必ず混じってる。このあたりがぼくの読書遍歴の特徴なんかなぁ。

で、「食」に関しての本でいちばん多いのは、実は小説なんじゃないかなぁと思う。というわけで、ことしも色々と。
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森沢明夫さんの「ヒカルの卵」に松宮宏さんの「まぼろしのパン屋」、それにおなぎまなかさんの「星空カフェ」。こういうのっていうのは、ほんとに屈託なく読めるっていうか・・・

で、屈託があるっていうわけではないんですが、久世光彦さんの「飲食男女」と大岡玲さんの「塩の味」。
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官能料理小説集なんていうジャンルがあるわけではないんですけども、奇しくも1年に2冊そんな本に出会った。料理小説自体が少ない中で何とか見つけ出して読んでるのに、さらにその中でこういう官能料理なんていうのに出会うっていうのはほんとに珍しいなぁって思ったりもする。
でも、この手の本、きらいじゃない。

さて、残りの1冊。今年一番影響を受けたっていうか、今も実践してるのがコレ。
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ケトジェニックダイエットに出会って、現在は5垳此習慣が身についたとは言えないんですけども、少なくとも、暴飲暴食には歯止めがかかった。
ま、それも含め、来年はどうなりますやら。

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「ケトジェニックダイエット」

2017-11-15.jpgいつの間にか今月も中日を過ぎてしまいまして、うっかり本の紹介をすっ飛ばしてしまったんですが、遅ればせながら。
で、紹介するのはズバリ、「ケトジェニックダイエット」。
このあいだから取り組んでるダイエットの元になった本。

少し前につれあいの同僚がこの方法で痩せたっていうので、つれあいがわざわざこの本を借りてきてくれたわけ。なので、取り組むっていうのは必然的な流れやったんですけど、問題はいつからしようかっていうことやったんですが・・・。
で、先月にちょうど人間ドックに行く機会がありまして、その翌週から取り組もうってことで決心しまして、それで10月の25日から始めたっていうのは、すでにブログで紹介したとおり。

さて、その内容なんですけど、まず、「ケトジェニック」っていうのは「ケトン体生成の」という意味なんだそうで、その「ケトン体」っていうのは糖に変わるエネルギーなんだとか。
で、糖質制限をするとそのケトン体を生成する回路が活性化し、その回路でケトン体がつくられて体脂肪を分解するんだそう。
でもって、同時にタンパク質など必要な栄養素を摂ることで、痩せながら若々しくなり、体調も良くなるっていうのがケトジェニックダイエットのしくみっていう話。

で、その肝心のケトン体回路を回すポイントっていうのは、まずは糖質を制限すること。
これで、ここ最近ごはんはおろか、うどんもパスタもじゃがいもなんかの穀類もほぼほぼ口にしてない。もちろんスイーツもここ最近はご無沙汰。
そのかわりに肉や卵、豆腐や揚げなんかタンパク質をガッツリと。もちろん食物繊維・ミネラルを摂取するため野菜も応分に摂り、さらにオメガ3脂肪酸を摂るために、亜麻仁油でドレッシングを拵えたり、あるいは間食にナッツを食べたり。

ま、その甲斐あって、現在3.5圓らい順調に減ってきた。
で、一応は1ヶ月でケトジェニックダイエットのヘビーローテーションは終えるつもりなんやけども、ここまでオモシロく痩せてくると、もうちょっと継続してみようかなぁっていう気も少しはあったりする。
でもなぁ、やっぱり白いごはんをかきこみたいっていう願望は根強いものがあって、リバウンドに気をつけながらふだんの食生活へ戻していくつもり。
いや、もはや以前の食生活とはちょっと変容した、あたらしいふだんの食生活っていうのを組み立てていかないといけないんでしょうがね。ま、そのあたりは、1ヶ月が終わる25日以降の話になるんかな。

でも、その頃がちょうど忘年会シーズンに当たるんでちょっと心配でもあるんですけどね。


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「塩の味」

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まだ読了していない本のことを書こうと思う
まだ表題作までも読み進んでないのに、こうして感想を書くっていうのはおこがましいとは思うんですが、奥付を見ると月刊プレイボーイで連載された短編集なんだそうで、きっと構造というか、中身的には同じ傾向の掌編が続くんだろうなぁということで。
とはいえ、それが退屈だということではない。むしろ、チビチビと酒を愉しむがごときペースに、このブログがうまくリンクできなかったっていうだけのこと。

で、この本、どういう内容かっていうと、amazonを覗くと、「フレンチから家庭料理まで、いくつもの食卓に繰り広げられる男と女の、子供たちの、恋人達の、哀しみと歓びの物語。かぐわしくてせつない料理小説集。懐かしくも胸締めつけられる絶品の数々」とあって、「BOOK」データベースからの引用で、「エロスの食卓二十二景。かぐわしくてせつない男と女のエロスの食卓。新鮮美味官能料理小説集」とアリマス。
著者は大岡玲氏。「黄昏のストーム・シーディング」で三島由紀夫賞を、「表層生活」で芥川賞をとっているストーリテラー。そのうえ、「日本グルメ語辞典」なる著書もあるくらいで、食および食の表象にも精通されてる。そういう人が書く掌編なわけですから、まさに珠玉なわけで、中身的に同じ傾向の掌編が続くとしても、それはそれで一篇一篇がおいしいわけ。

ただ、特徴の味付け。これが官能料理小説集となってるがゆえに、少しエロチックな風情が漂ってるんですが、2月にアップした久世光彦氏の「飲食男女」の艶っぽさとはまた違う風情。
対象が月刊プレイボーイの読者ですから、もう少し濃いめの味付けっていうか、グラマラスっていうか。
でも、食欲と性愛を結びつけるっていう方向は、つまるところ谷崎潤一郎に行きつくんじゃないかなぁって、ちょっとぼんやりと思ってる。
谷崎潤一郎の作品は、食が主題となることはほとんどなかったはずなんですが、氏の小説は食に関する描写に溢れてる。「痴人の愛」や「卍」は。食を通してエロチシズムを比喩的に表現しようとしたっていうくらいですから。
2月の「飲食男女」から少し飛んで今月の「潮の味」。またすこし飛ぶかもしれませんけど、次はやっぱり谷崎かなぁ。


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「新しいおいしさ」

2017-09-15.jpgきのうまで洋食、洋食、洋食、和食と来て、「次の予想は中華かなぁ?」って書いたんですが、その予想を裏切って本の紹介。中日っていうのを忘れてたもんで。

このAXISという雑誌。むかしっからいろいろ建築雑誌とかデザイン雑誌とかをとってたんですが、現在はこの1冊に落ち着いてる。まあ、むかし芸術系を専攻してたその証みたいなもんですかね。

で、そのAXISが「新しいおいしさ」っていう特集を組んだもんですから、こりゃやっぱり取り上げようかなってことで。この前ブルータスを取り上げたんで、雑誌を取り上げることにハードルもなくなったもんですから。

というわけで、「新しいおいしさ」。現代の多様な食環境にあって生命や社会の活力にもつながるおいしさの来し方とこれからの行方を探るというテーマ。
表紙の画像は「絶望と希望のグラノーラ」。森枝幹っていう気鋭のシェフの作品。
ディストピア社会の朝食をイメージしたんだそう。
もう少し詳しく書くと、気候変動と人口増加によって絶望的な食糧危機が訪れた未来を想定。過酷な環境でも育つキヌアや蕎麦を使い、豆乳のヨーグルトをかけてる。
アクセントに加えられてるのはイナゴと蜂の子。良質なタンパク資源として今後注目されるであろう昆虫食・・・てな具合。従来は不要とされていた食材を見直すと明るい未来が見えてくるのではという考えなんだそう。
他にも完全栄養食「ベースパスタ」とか植物由来の「ビヨンドミート」、あるいは電気で味覚をコントロールするエレクトリックテイストや味覚センサーが解き明かす味の秘密とか、さらには科学によって解き明かされたその先に、日本料理の新たなおいしさを探る・・・なんていう、あたらしい発想や取組が離陸していく。

でもなぁ、こういうコンセプトを持った食の提案とかって、どんどんぼくらの手元から遠ざかっていくような提案で、とてもとてもそれで真似ができるとかいう話ではないワケ。
でも、それでもぼくは飽くことなく厨房に籠ってるわけでして、こういう離陸していく発想とは真逆の、内へと潜航していくような発想でどうにかならんやろかと思ってる。

まだまだしばらくは潜って何か見つからんかなぁって模索してることと思います。


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「星空カフェ」

2017-08-15.jpgお盆もそろそろ終わり。8月も中盤にさしかかったわけですから少し本の話でも。

下の娘がバレエを習ってまして、その発表会が毎年ならで行われる。
家族としては、当然その発表の舞台だけを見ればいいってわけにはいかず、早くから乗り込んでいろいろと用事をするわけなんですが、ぼくはいつも、つれあいと娘を早くから発表会場となるホールへと送る運転手の役割を仰せつかってる。

で、あとは舞台までの時間をつぶさないといけないんですが、さいわいそのホールには大きな図書館が併設されてて、暇つぶしには事欠かない。でもって、その日に図書館を渉猟してめぐり合ったのがこの1冊。「星空カフェ」。

以前にも書いたように、ぼくが本を選ぶのには自分なりの基準みたいなのがあって、ここ最近だと「食堂」とか、「カフェ」とかいうワードにどうも惹かれるみたい。それでいうとこの題名、なかなか魅力的。

著者は、おなぎまなかさん。
正直言って全然知らない。ドイツかどこかでお住まいの方で、病床にあってこの本を著したんだとか。前に詩作が2冊あるだけで、ネットを検索してもほんど情報がない。

で、内容はというと、表題作から5ページほどの短篇が30篇ほど続く。
本当はもっと長い小説が書きたかったそうなんですが、気力も体力も続かず、これくらいの短いものを書くだけで精一杯だったんだそう。

その中で、もっとも心に残った一篇はというと、「歳月」という一篇。
恋人を亡くした女性に秘かに恋している青年の話。亡くなった恋人が持っていた懐中時計を探そうと旅立ち、ようやく探し当てたそれを女性に渡す。けども女性に求愛するではなしに、その充実した人生に感謝するという話。なかなかヨカッタ。

他にもいろいろあるけど、まずは是非手に取ってみて。ネットに書評もないようですし、自分で確かめるっていう原始的な方法がまだ有効なようですからね。


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「料理の四面体」

2017-07-15.jpg意外なことに玉村豊男さんの本を紹介してなかった。これまで、この方の本はけっこう読んでるんですがね。
この玉村さん、エッセイストとして有名な方なんですが、画家やワイナリーオーナーとしての貌も持ってる。まあ、人物像をきちっと認識してるわけではないけど、ぼく的には、食に関する造詣が深いエッセイストと認識してる。しかも食の造詣の深さは並ではない。なにせ東大仏文科からパリ大学言語学研究所に2年間留学、翻訳業を経て、果てはワイナリーオーナーにまでなる人ですからね。

で、その玉村さんの食に関する本としては最初か、それともずいぶん初期の本がこの「料理の四面体」。
料理をはじめてつくるときには、いわれたとおりにやらなければできない。
数多くの料理を覚え、ひととおりの手順を知るようになると、ようやく、こうやれば料理ができるのだという、料理の一般的原理が分かってくる。
しかし、そうなるためには年季がいるわけで、一発で料理の一般的原理を発見し、それを知ったらあとは次から次へと料理のレパートリーが無限に出てくるっていうような方法がないものか・・・
世界を旅して、いろいろなものを食べてみると、まったく違った姿の料理が次々に出てくるが、材料や調味料は異なるとはいえ、料理の方法じたいにはそう変わりはないのではないか・・・
そう考えていくうちに、料理の一般的原理を見つけることは案外やさしいのではないかと思いはじめたんだそう。
そんなふうなことを示す事例として、冒頭に引用された「アルジェリア式羊肉シチュー」が、「コトゥレット・ド・ムトン・ボンパドゥール」へと変異していく様は、なにかひとりの人物の顔が別の人物へと変異していくCGを想起させるような鮮やかなイメージを残してくれる。
そして、それをまた料理の四面体という理論に導いていくっていうのは、まさに鮮やかに料理したって感じですよね。
で、この四面体、正三角形が4枚合わさったかたちを想定してるんですが、底となる三角形の頂点には、それぞれ水、油、空気が位置付けられてる。で、それから立ち上がる三枚の三角形の最後の頂点には火が位置付けられている。
そして、たとえば火と空気を結ぶ稜線は、いちばん下が生もので、その上が干物、さらに上方にローストがあって、直火焼きと続いていく。これが油ならばコンフィからフライまで段階的な位置づけがあるんでしょうねぇ。
で、さらにこれが基本となる線的な位置づけなんですが、これが複合的になると面的な位置づけがあってさまざまな料理法がこのモデルのどこかにプロットされるっていう、そういう理論的な考え方。
この理論、20世紀を代表する思想家で「構造主義の父」といわれるレヴィ=ストロースの「料理の三角形」というキーワードが出発点になってるんだそう。
でも、たしかにその発想について類似点がありそうな感じなんですが、むしろ、先々月に紹介したアメリカきってのフードジャーナリスト、マイケル・ポーラン氏の「人間は料理をする」と比較するのがオモシロそうやとおもうんですが。


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「まぼろしのパン屋」

2017-06-15.jpgぼくの本選びっていうのは案外カンタンでして、最近はまちづくりやデザイン関係の本以外となると、もっぱら食べ物に関連した本ばかりっていう傾向。
で、食べ物関連も、以前に紹介した「かもめ食堂」や「食堂かたつむり」などに共通する「食堂」っていうキーワードがとても重要。
そういう意味では、「まぼろし」なんていうことばにはすごく惹かれるタチでして、そこにパン屋がひっつけば、もう読まない理由がない。

というわけで「まぼろしのパン屋」。
舞台は大東京電鉄が開発したつきみ野っていうところ。ここは主人公の勤め先のある渋谷へ直結している路線の始発駅だったという設定。途中駅で乗ってくるサラリーマンたちの苦労を脇目に、座って渋谷まで通勤という優越感に浸ってたのが、後年路線がひと駅延長され、始発駅ではなくなった。
このあたり、ぼくが住んでるところも首都圏と大阪圏の違いはあるけど同じ環境。何年か前にひと駅延長されて始発駅ではなくなったっていうところも一緒。
ただ、勤め先の会社の開発事業が頓挫、政財界を巻き込むスキャンダルで責任者は左遷され、主人公がところてん式に出世する。まあ、このあたりは全く真逆の境遇ですが。
で、そんなある日、通勤途上に見知らぬ老女からパンをもらったことからどんどんと主人公の人生が展開していく。
パンをもらった老女は、開発で買収交渉をしたまま頓挫していた「しあわせパン」の亡くなった女主人。不思議な糸を手繰っていくと・・・っていうストーリィ。

こんなふうに読み進んでいくと、今はもう閉店してしまったわが家行きつけのパン屋「ルヴァン・ルヴュール」を想い起さずにはいられない。
主人公と住んでる環境が一緒、まぼろしのパン屋っていう設定も思い当たるフシがある。作者は大阪市大出身で、まるで設定を東京に替えて書いたんやないかなぁって思えるほど。
まあ、出世に関しては真逆ですし、主人公ちの秘蔵のワイン、シャトー・ムートンも上の娘が生まれた年のを買おうとしたけど、結局買わなかった(ちなみにこのワイン、買っておけば今頃20万円近くになってたんやけどなぁ・・・)。
まあ、そのあたり、似てる環境ではありますが、ビミョ〜に違ってる。宝くじの少しの番号違いみたいな感じで、惜しいなぁって思いながらもけっこう楽しく読めましたけども。


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